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吧主的生肉

只看楼主收藏回复

以後翻译的資源可以放這吧主桑


来自Android客户端1楼2016-10-07 17:06回复
    19


    来自Android客户端2楼2016-10-07 17:11
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      啊,8級了→_→


      来自Android客户端3楼2016-10-07 17:11
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        IP属地:湖南来自Android客户端4楼2016-10-07 18:42
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          樓主其實是想水到8級吧?


          IP属地:中国香港来自Android客户端5楼2016-10-07 19:05
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            这标题……吧主的生肉……怎么越看越别扭啊


            IP属地:广东来自Android客户端6楼2016-10-07 23:19
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              第19話 出会ってしまった運命
              「大丈夫か!?」
               そう声をかけながら、俺たちは魔猪カル・ボアに向かい合った。
               近くまで来ると、襲われている人影の正体がはっきりと分かる。
               俺たちよりもよっぽど低い身長に小さな体、つまりは子供だった。
               長い黒髪と白磁のような肌が好対照をなしている美少女と言っていいくらいの、こんな村には似つかわしくない都会的な格好をした少女であり、おそらくは村の外からここにやってきたらしいことが分かる。
               たまに誰かの知り合いが村の外から訪ねてくることも決して少なくはないから、そのこと自体に奇妙なものは感じなかった。母のように、王都に知り合いのいる村人もそれなりにいるし、高貴な人々に縁のある者も少なくないこの村。だからこのような少女が村にいることに、別段奇妙なことはない。
               そのような少女が親などの保護者から離れて遊んでいるうちに、村の外縁部へ出てしまったのだろう。そして魔物に出会ってしまった。つまりは今回のことはそういう不幸な事故なのだろう。
               魔猪カル・ボアにいつ襲いかかられても避けられるように、よく魔猪カル・ボアの動きを見ながら、後ろにいる少女に話しかける。
              「走れるか!?」
              「え……?」
               普通に都会の街で一生を過ごす分には、野生の魔物に出くわす機会はほとんどないと言っていい。せいぜい、見せ物小屋でその凶暴性を薬などで鎮められた魔物を見物するくらいで、街の人間というのには少なからず魔物の恐ろしさというものを知らない者がいるものだ。
               少女もその一人なのか、俺の質問に答えない。
               じれったさを感じたのか、テッドが少し怒鳴り気味で叫ぶ。
              「走れるかどうかを聞いてるんだよ! どうなんだ!」
              「あ、あぁ、大丈夫だと思うのじゃ……じゃなかった、おもい、ます?」
               なぜか、少し疑問文で少女はそう言った。
               けれどカレンもテッドも不思議なものは感じなかったらしい。
               そのまま聞き流して二人は言った。
              「じゃあ、とりあえず俺とジョンでこいつはどうにかする。カレンはその娘を連れてアレンさんを呼んで来い!」
              「分かったわ! ……さぁ、こっちよ!」
               まさに阿吽の呼吸である。テッドは俺の顔を見て少し笑った。戦いに血がたぎっているらしい。どんな敵が相手でも決して気は抜くなと教えてあるから、魔猪カル・ボア相手だろうと油断しているわけではないのだろうが、少しばかり気が抜けている気がした。これは後で特訓だな。
               そんなことを俺が思っているなどとは露知らず、テッドは剣をしっかりと持ち、身体強化魔法を全身に巡らせている。この場で倒す気だろう。まぁ、親父が来るのを待つよりはその方がいいだろう。
               そんなことをしている中、カレンは少女の手を引いて、村の中へと引っ張っていった。今はもう、二人の姿は遠く、背中しか見えない。カレンに引かれていくときの少女の表情が俺は少し気になっていた。どことなく、変な感じがしたような気がしたのだ。そんな少女の前で魔法を使ったりはできないとも思った。けれどカレンが連れてってくれたし、もう気にすることもないだろう。
              「……耐久強化フォルティキーギ!……筋力強化フォルトプレーナ!」
               俺もテッドと同じく身体強化を自らに施し、魔猪カル・ボアに向かう。魔猪カル・ボアも決して弱くはない。魔物だ。通常動物と比べたら雲泥の差がある、それこそ化け物と言ってもいい存在だろう。
               しかし、星の数ほどある魔物の種族の中で、人語も解することの出来ない低い知能しか持たない上、その魔力の使い方は突進力の強化一辺倒であり、戦い方は直進のみという、本当に猪でしかないその魔物は、魔物の中でも比較的戦いやすいものであるのもまた事実であった。
               その気になれば家すらも破壊しかねない強力な突進を繰り出すその巨体は確かに脅威であり、普通の子供なら倒すことなど望むことは不遜を通り越して無謀となるだろう。
               けれど俺たちはそうではない。
              「テッド、じゃ、いつも通りな」
               そう言って走り出すと、俺とは反対方向から魔猪カル・ボアに向かって走り出すテッドの姿が目に入る。
              「分かってるぜ!」
               その速度は中々のもので、どう見ても子供に出せる早さではない。身体強化魔法のなせる技だった。そのままの勢いで、未だ突進をしようとはしない魔猪カル・ボアの横合いに潜り込むと、素早く剣を振り上げてその足を切り倒す。俺も鏡にようにテッドと同じ事をし、まず魔猪カル・ボアの足をつぶした。
               その直後、魔猪カル・ボアの口から、
              「……ブモォォォォォォォ!!」
               と巨大な叫び声があがるが、俺もテッドもそれに驚くことはない。
               冷静にまだ余っている足に取りかかり、突進など出来ないようにしてから、剣を差し込んでその命を刈り取った。
               少しの間、びくん、びくん、と痙攣を繰り返していたが、それもほんの数十秒のことである。次第に瞳から光を失い、魔猪カル・ボアはその命を失ったのだった。
              「じゃ、解体するか」
               テッドがそう言ったので、俺は頷いて答える。
               しばらくしてから親父がやってきたので、この魔猪カル・ボアは親父が倒した、ということにしてもらうために口裏合わせをした。村人にとっては誰が倒したかなんてどうでもいいし、この村において魔物を倒せるのは親父だけだというのは常識的な知識である。したがって、それを疑うものなど存在しない。
               そのはずだった。
               思いがけず手に入れた獲物を、森の中で穫ったものと併せてテッドと親父と手分けして村人達に配り終えると、残りの収穫物をもって家に戻った。母さんは外出中ーー徴税官に食事を出すために村長宅に行っているはずだから、家には誰もいないはずだったが、思いがけず家にはすでに母さんが帰ってきていた。
              「あれ、どうしたんだ? 今日は徴税官殿をもてなすんじゃなかったのか」
               そう話しかけると、
              「いやね、テルーダが料理はほとんど作り終えたし、残りは自分がやっとくから早く帰っていいっていうから早めに帰ってきたのよ。出来れば晩ご飯の支度はしたいところだったし、朝も夜もアレン任せじゃ悪いでしょ?」
               と答えた。テルーダはこの村唯一の宿の亭主であり、この村では母さんを除く誰よりも料理が上手な男である。
              「ふーん……」
               とぼんやり答えつつ、俺は穫ってきた獲物、つまりは森で狩ってきた魔物の肉を母に渡した。
              「あら、魔猪カル・ボアに火炎狐フレイム・フォックスね」
               と少し顔を綻ばせ、うれしそうである。
               魔物の肉は非常においしい。ただ、狩れる人間が少ないために、その肉は基本的に貴重で高価なものだ。家畜化することも難しい魔物の肉は、安定的な供給に向いていないこともある。さらに特殊な調理法が必要な場合もあって、その扱いは簡単ではないが、少なくとも魔猪カル・ボアと火炎狐フレイム・フォックスはどこにでもいる比較的ポピュラーな魔物であり、特別な調理法も必要なく、通常の肉類と同じように扱って問題ないものである。
               今、母の頭にはいくつものレシピが浮かんでいて、どれにするか悩んでいるのだろう。とは言っても、面倒くさそうではなく、むしろ楽しんでその行為を行っていることはその表情から分かった。この人は料理が非常に好きなのである。好きこそものの上手なれ、とはよくいったもので、母さんのそういう性質が、この人をこの村一の料理上手へと導いたのかもしれない。
               そうして、母さんは晩ご飯の献立を決めたようで、魔物の肉を手に頷くと、まだ母さんの横に突っ立っていた俺に気づき、
              「あぁ、ジョン。なんだ、まだいたの。あなたはいいから、自分の部屋か居間で休んでなさい。今日は疲れたでしょう? ……この魔物もあなたが穫ってきたのよね」
               最後の方は、少し声を潜めてそう言った。別に誰が聞いているわけでもないのだから、そんな風に声を潜める必要はないのに、とは思ったが、用心はするに越したことはない。そう思った俺は頷き、居間に進むことにした。
               親父は魔猪カル・ボアが森から出てきた件について、村長に報告に行っている。出てきた場所が森に近い村の外れの方とは言え、魔物が自分の縄張りから出てくることなどあまりないことである。何か森で起こっている可能性もあり、こまめな報告は必要なことであった。
               それに、親父が言うにはここ最近、他の土地でも似たようなことが多く起こっているらしく、何らかの異変の予兆なのではないかとも言われているらしい。殆どの人間は、そのような不安を煽る言説は常のもので、今度もまた何か起こったりはせずに平和に時は過ぎていくのだろうと考えているようだが、その感覚は間違いであることを、俺は知っている。親父もだ。
               魔物の活動が活発になってきているというのは、つまり魔族の活動が活発になってきているということに他ならない。今は全く姿の見えない、高位魔族ーー魔人であるが、俺たちが少しずつ戦争に向けて準備をしているように、彼らもまた、いずれ来る開戦のそのときへ向けて、何かしらの準備をしているのかもしれない。


              IP属地:广东7楼2016-10-07 23:22
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                そんなことを考えていると、顔が少しずつ強ばってくる。
                 本来なら思い出したくもない、あの時代の足音がゆっくりと聞こえてきた気がした。
                 そんな表情のまま俯いて居間に入ると、
                「……ジョン、顔こわいよ」
                「なんじゃ、お主。もうちょっと明るい顔をしたらどうなんじゃ」
                 という二つの声が聞こえてきた。
                 親父はまだ帰ってきてないはずだ。そして母さんはキッチンにいる。となると、一体誰がこんなところに……。
                 そう思って、俯いた顔を上げるとそこには先ほど別れたはずの二人の少女が一枚板のテーブルについて、母さん手製の焼き菓子をばくばくと貪りながら俺の方を見ている姿が目に入った。
                 親父を呼びに行ったっきり戻ってこないと思ったらなんでこんなところに。親父が来たから当然無事なのは分かっていたが、なぜ俺の家で菓子を貪っている。
                「……何やってんだよ」
                 なんとも言えず、げんなりとした俺の口から出た言葉はぶっきらぼうなそんな台詞だった。しかし二人はさほど気分を害した様子はなく、お菓子を食べながら話しかけてくる。
                「何って、おかし食べてるんだよ」
                 カレンが言うと、もう一人の少女が続けた。
                「いやはや、ここの奥方は料理上手じゃとカレンに聞いてな。わしもご相伴に預かりたいものじゃと言ったら、じゃあ連れってあげるとな! 全く懐の深い良い娘じゃ……わしの知ってる娘とは大違いの、素晴らしい娘よ。全く、若い娘とはこうではなくては! それでな、この焼き菓子だが、いくつかもらっていきたいのじゃがいいかのう!? それに奥方にこれの作り方を教えてもらいたいのじゃが」
                「おい待て」
                 酷く馴れ馴れしい娘だった。馴れ馴れしいにも程がある。どうしたらほぼ初対面の人間にこれほど馴れ馴れしくなれるのか。
                 止めないとどこまでも続けそうなその少女の台詞を遮り、とりあえず頭を整理して何から聞くべきかを考えた。まず先ほど魔物に襲われていたときの敬語はどうやら猫をかぶっていたらいいということは理解できた。しかしそうではなく、何か聞かなければならない気がした。
                 なぜと言って、なんとなく、この少女は尋常ではない、気がした。というか、よく見ると、その幼いながらも美しく整った顔を、俺はどこかで見たことがあるような気がしたのだ。しかしその記憶は掘り起こそうとしても中々出てきてくれず、俺はあきらめて尋ねることにする。
                「……まず、お前はどこの誰だ」
                 俺のその台詞に、少女はあぁ、そういえば、という顔で話し始める。
                「わしか? わしはローゼンハイムじゃよ。親しい者はローズ、と呼ぶ。お主はジョンじゃな? あの魔の森の守護を任されている魔剣士アレン=セリアスの息子じゃろ? なるほど確かにいい面構えをしておるの! わしを魔物から助けようとしてくれたところもポイントが高いぞ! お主には特別にわしのことを、”ローズちゃん”と呼ぶことを許そうぞ! あぁ、でもあんまりたくさんの人の前で言われると恥ずかしいでな。で、出来れば、あれじゃ。二人っきりのときとかにしてもらえるといいのじゃが」
                 どこまでしゃべるんだ、この娘は。
                 と思ったところ、ローズはそのままの勢いで何か水晶玉のようなものと取り出し続けた。
                「あぁ、そうじゃそうじゃ。ここに来たのは焼き菓子だけが用事じゃなかったのじゃ。まぁ、焼き菓子がメインじゃから、こっちはついでじゃが……この水晶玉を見てみい。ほれ」
                 そう言って何かローズが唱えると、その水晶玉の中に見たことのある光景が映るのが見えた。
                 たしか、この水晶玉は王都で五年ほど先に売り出される予定の映像水晶と呼ばれるものだ。なんでこいつが持っている……などと考えている暇もなく、水晶に映るそれに俺は絶句した。
                 ローズの方はと言えば、俺とは対照的に先ほどまでと変わりなく、ばくばくとカレンとともに焼き菓子をほおばって楽しそうである。
                 水晶の中で、二人の少年が何かを叫んでいた。魔物の断末魔の声も聞こえる。
                『……耐久強化フォルティキーギ!……筋力強化フォルトプレーナ!』
                『テッド、じゃ、いつも通りな』
                『分かってるぜ!』
                『……ブモォォォォォォォ!!』
                『じゃ、解体するか』
                 あのときの全てが、映像水晶の中に映っていた。
                 どこから見ていた、とは言わない。これは魔法『千里眼チルカーウォ・ウィーディ』を使えば可能なことだ。この時代に、この魔法は存在しないはずだという問題を除けば。
                 そうして、すべてを見終わったあと、ローズは言った。
                「子供があまりにも自信満々なんでのう……確かに良く見てみれば十分魔術師を名乗る魔力量があるらしいことは理解できたが、それでも何かあったらと心配で見てたんじゃ。そうしたら、驚くべきものが見れたではないか! 本当に驚くべきものじゃ! お主に聞きたいのは、この魔法の術式じゃよ! 素晴らしい! 素晴らしいのじゃ! こんなに無駄のない構成は初めて見たぞ! それに部分強化など未だ理論的には可能とは言えても、実践には至ってないフロンティアじゃぞ。こんな辺鄙な村にこれほどの逸材が埋もれているとは寡聞にもわしは知らなかったのじゃ! 今回はタロス村の料理が絶品じゃと聞いてやってきたが、それと同じくらいの掘り出し物がここにあるとは思わなかったのじゃ!」
                 うれしそうである。とてつもなくうれしそうである。
                 そして、そのうれしそうなローズはもう一言付け加えた。
                「それにしても、わしと同じ発想で・・・・・・・・魔法を扱おうとし、更にはそれをわしに先んじて実用化している者がこんなところにいるとは思ってもみなかったのじゃ! ジョン、お主、わしとともに王都にこんか!? あのテッドも一緒にじゃ!」
                 聞き捨てならない一言だった。
                 あまりにも。
                 俺は血の気が引いた頭で、しかし今ここで訪ねるべき最も重要な問いをローズに投げ込む。
                「おい」
                「なんじゃ?」
                「あんた、名前は?」
                「だからローズじゃ。ローズちゃんでも……」
                「それはもういいっての。本名を言ってみろ」
                「本名? 別に構わないが……ローズちゃんじゃ気にいらんかのう……」
                 残念そうにそう言ったローズはそのまま続けて名乗った。
                 俺にとって聞き覚えのある、その名を。
                「わしの名前は、ローズ。本名、というか、家名までいれるなら、ローゼンハイム=ナコルルじゃ!」


                IP属地:广东8楼2016-10-07 23:25
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                  「第二に、まだあれは研究の足りない部分がある」
                   確かにあの時代、ナコルルはその魔法の秘奥の殆どすべてに手をかけていた。けれどそれはナコルル本人がそうだったというに過ぎず、俺のような一般兵は必要な知識を必要なだけ覚えていたに過ぎない。ナコルルだけが知っている知識もあったし、ナコルルしか理解できていない理論も沢山あった。この二年間、テッド達に魔法を教える過程で、俺は自分の覚えている知識や技術の曖昧さを、そして足りなさを理解した。だから、出来うる限りの実験や実践を繰り返し、あの当時のナコルルの水準まで魔法技術を進められないかと努力してきたのだが、それでもまだ全く及んでいないのが実状だ。そして、そのことは、ナコルル式魔法体系の安全性にも関わってくる。テッド達には、安全だと確認されているものしか教えていないが、基本を学べば応用は自分の力で切り開いていくことが可能になる。そのためには才覚が必要だが、この魔法が世界に広まり、多くの人間の実践が出来るようになれば、安全ではない魔法実践が様々なところで行われるようになるかもしれない。
                   前世、そのようなことがなかったわけではない。魔法の研究による大規模な事故、というのは少なからずあった。けれどもそれは常に許された。と言うのはそれが戦時中の出来事だったからであり、必要な犠牲であるとされ、そのことにみんなが納得したからだ。実験を進めなければ、人類が滅びるのだからさもありなん、というところだろう。
                   けれど、今は違う。人類国家同士の小競り合いはあっても、人類の存亡がかかっているわけではない今、前世に引き起こされたような大事故が起きれば、ナコルル式の研究や使用それ自体にストップがかかる可能性もある。
                   それは困るのだ。人類が魔族に勝つためには、どうしてもこの技術が必要であるから。これがなければ、人類は負けていたと俺は考えているから。
                   とはいえ、そんなことを語るわけにもいかない俺が口に出来るのは、一般論だけだ。
                  「俺やテッドが使っている魔法は、確かに合理的で有用なものであることは間違いない。だが一歩間違えれば大規模な事故が起きることもありうるものだ」
                  「そうかの? 十分な理論的裏付けをとれば、少なくとも人命にかかわるような被害は避けられそうなものじゃが」
                  「その気持ちは分からないでもないが、ナコルル、あんたなら分かってるだろ? その十分な理論的裏付け、ってものが、現場では頼りないものになりうるということを」
                   そう言うと、ナコルルは眉を寄せた。
                   彼女だって分かっているはずだ。完璧な理論を立てようと、それがフロンティアである以上、不測の事態は起きる。そしてそんな自体に突入した時点で、事前に立てた裏付けなど役に立たなくなる。そのままつぎはぎの理論でもって実験を続ければ、最終的には前世起こったような大事故に繋がっていくのだ。
                   そう、俺がいいたいのだと理解したらしいナコルルは、嘆息していった。
                  「……ふむ。主の言いたいことは分かったのじゃ。そして、わしはこう見えても結構懐が広いのじゃ!」
                   その瞬間、ふんぞり返って胸を張るものだから、俺とカレンの視線はなんとなくだがナコルルの胸元に集まった。
                   ナコルルはその視線の先を理解すると、
                  「むっ、むねは……その……」
                   膨らんだ蛙の腹が萎むように勢いが沈んでいくナコルルに、カレンが一生懸命慰め始めた。いわく「いや、まだまだだよ!」とか「これからの成長に期待だよ!」とかそんなことを。
                   でもカレン、その娘はもう成長に期待できるような年齢ではないんだよ……などと言ってやれるほど俺は鬼にはなりきれず、しばらく傍観した。
                   そして意気を取り戻したナコルルは続ける。どことなく、覇気がない感じがしないでもないが。
                  「……まぁ、ともかく、あれじゃ。一緒に来てくれれば嬉しいのじゃ。要求は全部呑もう。お主の魔法は秘密にしよう。お主の言い方じゃと、いつかは公開するつもりでいるようじゃし、それなら構わんじゃろ。それにわしはそもそも……」
                   と、そこまで言い掛けたところで、ガンガンガン!と玄関のドアを誰かが叩く音が聞こえた。
                   ナコルルも語りかけた言葉を飲み込んだ。
                  「ジョン! いま、手が放せないから出て!」
                   台所から母さんの声が響く。料理の仕込み中なのだろう。
                   しかたなく話を中断し、俺が玄関まで歩いていき、扉を開ける。
                   すると、そこには、目を見張るほどの美人が立って、こちらを見下ろしていた。どことなく切れ長でつり目がちなその視線には、何か背中をぞくぞくさせるものを感じさせる。体型はすらっとしているが、それでもよく鍛えられていて、戦闘では機敏な動きを見せることだろうことを、俺の兵士としての観察眼が告げていた。
                   肌は雪のように白く、年齢は二十代前半、と言ったところだろうか。
                   服装はやはり都会的で、その冷たい容姿を引き立たせる見事なセンスを感じさせるものだ。
                   総じて、その人は、この気性の穏やかな人の多い村では中々見かけない、クールビューティーであると言えた。
                   しかしそんな女性なのにも関わらず、俺に対して向けるその視線は、優しげだ。男など切って捨てそうな顔をしているが……と思ったところでそう言えば俺は子供なのだったと思い至る。
                   そうか、この人は俺を子供だと思っているからこんなに優しげなのか、だったら今なら抱きついても許されるだろうか、とまで考え始めたところで、クールビューティーはその口を開いた。
                  「こんにちは、坊や」
                   坊や。坊やと来たか!
                   村のおっかさん達から呼ばれてもなにも感じなかったこの言葉に、なぜか俺は強烈な興奮を感じていた。なぜだろうか。不思議だ。
                   しかしそんな俺の心情などつゆ知らず、彼女は続ける。
                  「お母さんはご在宅かしら?」
                  「いるけど、今は手を離せないって。要件ならとりあえず俺が聞くよ」
                  「そう? まぁ、坊やでも確かに構わないわね。私の要件はそんなに難しいものじゃないもの。……今日お訪ねしたのは、ちょっと聞きたいことがあって」
                  「聞きたいこと?」
                   はて。うちに何かこのような美人が訪ねてくるような何かがあっただろか。
                   俺が首を傾げて悩んでいると、美人は続けた。
                  「実はこのおうちに、背の低い態度のでかい馴れ馴れしい娘が居座ってないかしら?」
                   ……いるな。
                   心当たりたっぷりな俺は頷いてその人を家のへと案内することにした。
                   これは彼女が美人であるから、などという即物的な理由でもって応対したからではない。
                   そうではなく、彼女の体から立ち上る、なんとも言えない迫力、というべきものを感じたからだ。
                   しかもそれは俺に対して放たれていると言うより……。
                  「……!? セリア! なぜここがわかったのじゃ! ありえん! ありえんのじゃ!」
                   俺が彼女を居間へと案内したそのとき。
                   ナコルルは彼女を見た瞬間、ぶるぶると震えだし、そんなことを叫んだ。
                   あんたに怖いものなんてあったんだな、永遠の賢者よ。
                   そんなことを思って傍観していると、クールビューティー、セリアは、ナコルルの首根っこをつかみ、玄関まで引きずりつつ話し出す。どうやらこのまま帰る気らしい。
                  「なぜもなにも、村人達に聞いて回ったんですよ、ローズ。全く本当にあなたって人はどうしようもないですね。どうしていきなり他人の家にあがりこんでまるで我が家のようにくつろいでいられるんですか。しかもそれを一つも悪いとは思っていないと言う始末。そういえばこの前もガミガミガミガミ」


                  IP属地:广东10楼2016-10-07 23:31
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                     延々とまくし立てるその口調は、よくしゃべるナコルルをして黙り込ませるほどの勢いである。
                     なにも言えずにうなだれているナコルルに、少しかわいそうなものを感じないでもなかった。
                     カレンもその二人の様子を唖然として見つめている。
                     玄関まで歩いているときも、セリアの口は止まらない。声が冷え切っている上に、顔立ちがもともと非常にクールで、しかも少し怒っているらしい彼女は、その迫力がかなり凄かった。
                     ナコルルは何も言えずにずるずると引きずられている。いや、正確には何か言おうとはしているのだ。「……あ」とか……「う」とか。
                     けれどその度にセリアの間髪入れない口調に遮られ、言葉にならずに最終的に無言になってしまった。もはや完全に項垂れている。こうなっては永遠の賢者もその英知を披露する機会さえ与えられない。彼女の敗北は確定的である。
                     そうして、玄関まで来て、扉を開いたセリアは、振り返って着いてきた俺とカレンを見て、
                    「手を出して、二人とも」
                     と言った。
                     俺とカレンは素直に従い、手を差し出す。
                     するとセリアはナコルルをつかんでいる方と反対の手をポケットにつっこみ、何かを取り出して俺とカレンの手に順番に乗せた。かさり、と包み紙の音がする。
                    「これ、私の手作りの飴なの。良かったら食べて。今日、この娘――ローズが迷惑をかけたお礼」
                    「迷惑なんて……」
                    「楽しかったよ、わたし」
                     俺とカレンがそう言うと、セリアは微笑み、そして俺たちの頭を撫でてくれた。
                    「ありがとう。そう言ってくれると、私も嬉しいわ。それじゃあ、またね」
                     そう言って、二人は玄関から出て行く。ナコルルが引きずられているのは言うまでもない。
                     けれど、魂の抜けきったような顔をしていたナコルルは最後の気力を振り絞ったのか、
                    「じょ、ジョン! そうじゃ、まだ返事とか詳しい話を聞いておらんぞ! また明日じゃ! 明日また……」
                     そこまで言ったところで、セリアに頭をげんこつで殴られて、ナコルルは沈黙した。
                     ひどい。英雄にあんな仕打ち。
                     まぁ、本当に仲がいいからこそ出来る態度なのだろうとは理解できるのだが。
                     ナコルルが沈黙したことを確認し、再度引きずり始めた世リアは振り返ってにこやかに手を振ったので、俺とカレンは唖然としながら振り返す。
                     そして二人が見えなくなったところで、玄関を閉めてカレンと居間に戻った。
                     テーブルの上にはナコルルの持ってきた映像水晶が置いてある。どうやら忘れていったらしい。
                    「……」
                    「……」
                     怒涛の展開に、二人そろってなんとも言えず、無言だった。
                     しかし手には飴がある。
                    「まぁ、せっかくもらったし、とりあえず、飴たべるか」
                    「……うん」
                     二人でもらった飴の包み紙を開いて、飴を口に含んだ。
                     すると、甘い味が口いっぱいに広がる。
                     飴については、俺もカレンも母さんのお菓子をいつも食べているだけあり、一家言持っている。当然飴もよく母さんが作ってくれ、非常に単純なものだけあってその味にごまかしが利かないことも分かっている。
                     そんな飴グルメの俺たちはよくその飴の味を味わう。
                     無言で、その味を……。
                     そして、出た結果は。
                    「……おいしい!」
                    「あぁ、うまいな」
                     その飴は、意外なことに、俺が前世を含めてもほとんど食べたことのない、母さんの作るものに匹敵する味をしていた。


                    IP属地:广东11楼2016-10-07 23:32
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