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官方web小说武装侦探篇《武装探偵vs不死サイボーグ》

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 何とはなし路地裏へ視線を向けると――非日常が広がっていた。
 奇妙な鎧をまとった何者かが、手甲に包まれた大きな腕で、スーツの男性の首を掴み上げている。
 鎧は2mにも届きそうなほど背が高く、隙間から差し込む月明かりで黒光りし、フォルムが丸みを帯びている。
 肩口まで広がり、顔をすべて覆い隠した兜は、パパが大切に飼っているカブトムシのメスみたいだなぁと、あまりにもノン気な考えが頭に浮かんだ。
 この私、七条奈々菜は親が金持ちなだけの、平凡な女子高生。
 きっとステータスを『お金持ちの家の生まれ』という境遇に、全振りしてしまったんじゃないかと思う。
 目立った特技も趣味もない。好きなものはゲームくらいなもの。これまでの人生で面白いことなんてなかったし、これからもないものだと思ってた。
 だから、目の前のあまりに異常な光景に、頭の処理が追いつかず、呆けることしかできない。
 ――ゴキッ。
 生々しい骨の破砕音が、私を現実に引き戻した。
 ありえない方向に首の曲がった男性と、目が合ってしまう。
 生気を失ったその目は、まるで冷蔵庫によく入っているお魚のようで、恐怖よりも気色悪さが上回った。
「……目撃者と遭遇。処理を開始する」
 鎧が男性とも女性ともとれない無機質な声を発した。
 無知でノン気な私も、ようやく自分が命の危機に瀕していることを自覚する――
「い、いやぁぁぁぁぁぁぁぁあああああッ!?」
 どうすればいいのか分からないので、とにかく大声を出しながら人通りの多い通りに向かって走った。
 ここは、東海地方有数の繁華街、O須商店街のすぐ近く。
 人通りの多い場所なら、あの化け物だって流石に何もできない。できないはず。できないよね?
 何も考えれられないくらい、必死に走って、走って、走り続けて。
 私は気付けば、交番で警官に保護されていた。
 警官たちは、私の話を話半分に聞いていたものの、私が記憶を頼りに似顔絵を描いてみると、空気が一変。

 すぐさま自宅へとパトカーで送迎され、パパからウソみたいな話を聞かされることとなった。
 どうやら私は、『不死サイボーグ』と呼ばれる殺し屋の犯行現場を、目撃してしまったらしい。
 しばらくは学園も休んで、自宅の屋敷でボディガードたちと共に不死サイボーグの襲撃に備えるよう、パパから命じられた。
 それから早二日――
「不死サイボーグって何なのよ……意味分かんない」
 自分の部屋の天蓋付きベッドに寝転がりながら、私はもう何度目になるか分からない愚痴を口にする。
 殺害現場を目撃したあの日、O須商店街を訪れたのはほんの出来心からだ。
 パパもママもいつも仕事で屋敷を空けていて、学園のない休日は暇で仕方がない。
 大好きなゲームセンター目当てに、こっそり街へ遊びに出かけるくらい、普通のことだと思う。
 少なくとも、罰当たりなことではないだろう。
 それなのに、命を狙われる羽目になるなんて、あまりにも理不尽じゃないか。
「早く学園に行きたいよぉ……」
 枕に顔を突っ込んで、私は誰にも聞こえないようつぶやいた。
 私の通う学園――私立百合愛学園は平凡な私にとって、何よりの憩いの場。
 悪いことなんて何ひとつしていないのに、どうして私が、唯一の楽しみを奪われないといけないんだろう。
「いつになったら、私は自由になれるの? 学園に通えるようになるの? 誰か、教えてよ」
「大丈夫。すぐに通えるようになるのである」
 思いがけず返事があった。
 驚き、枕から顔をあげ、声のした方に視線を向けた。
 何とベッドのすぐそばに――鈍色《にびいろ》の甲冑の男が立っていた!
「七条どの! おぬしのことは、この武装探偵《ぶそうたんてい》が命をかけて守ろう」
「ギャアアアアアアアアアアア!?」
 そして屋敷中に響くくらい盛大な悲鳴をあげてしまうのだった。


IP属地:浙江1楼2021-05-31 22:49回复
    ●前編『武装探偵vs不死サイボーグ』
     例の甲冑男が部屋の隅で正座している。
     そして男の前には、室内なのに和傘を差しているという、これまた奇妙な黒スーツの女性が立っている。
    「武装はん。初の大仕事で気がはやるのは分かりますけど、焦りは禁物どすえ?」
    「す、済まないのである……居合《いあい》どの」
     和傘の女性は長い黒髪を手ですきながら、ベッドに座る私の元までやってきた。
     その動きには無駄がなく、私の通う学園のトップ、一流のお嬢様たちの所作を想起させる。
     恐らく、名高い家系の出身なのだろう。
    「七条はん、驚かせてしもうて、かんにんなぁ」
     女性が仰々しく、深々と頭を下げて言った。
     その僅かな所作さえも華麗で、同性相手なのに胸が高鳴ってしまう。
    「ウチらは、怪しいもんとちゃいます。あんさんのお父はんに頼まれてやってきた『探偵同盟』っちゅう組織の一員なんよ」
    「探偵同盟……? それって、警察と協力して色んな事件を解決してるってウワサの、秘密結社ですよね?」
    「知ってはるなら話が早いわ。秘密結社うんちゃらはよぅ知りまへんけど、まぁ警察と協力関係っちゅうんは本当のことやね」
     『探偵同盟』と言えば、ネット上で都市伝説みたいに語られている組織だ。
     まさか実在するどころか、私の護衛をしてくれているなんて。
     ますますフィクションじみてきた。
     ドッキリなら、そろそろネタばらしをして欲しい。
    「おっと、自己紹介が遅れましたわ。ウチは『居合探偵《いあいたんてい》』。その名の通り、居合術や抜刀術に自信があってなぁ、今回みたいな護衛系の仕事を主に担当しとります」
    「た、探偵って、こんな護衛みたいな仕事もするものなんですか?」
    「まぁ素人さんはそう思いはるわなぁ。探偵は万事屋みたいなところがありますから、ウチやそこの武装はんみたいに、護衛系の仕事を生業とする探偵もおるんよ」
     ちらりと武装探偵と呼ばれた甲冑の男を一瞥すると、正座したまま嬉しそうに手をブンブンと振り回した。
     見るからにアホ丸出し。
     確かに、護衛の仕事くらいしかできなさそうだ。
    「武装はんはまだ新人で慣れてないから、さっきの無礼は許してあげたってぇ。代わりと言ってはなんやけど、ウチは100人いる探偵同盟の中でも序列10位やし、それなりに信頼してくれてもええと思うよ?」
    「じょ、序列10位」
     どういう基準の序列なのかは知らないけれど、何だかスゴそうだ。
     まとっている空気感も半端ではないし、見るからに頼りになる。
     変質者まがいの鎧の男とは大違いだ。
    「七条どの、我は武装探偵! この生命に代えても、おぬしを守り抜いてみせるのである!」
    「あ、そう」
     遠くから大声で話しかけられたが、つい冷たい言葉を返してしまった。
     少し申し訳なく思うけれど、好意的には接せられない。
     そもそも私は男性が非常に苦手だ。
     幼い頃から、パパの知り合いのおじさんたちの妙な接待を受け、子どもながらに悪意を感じ取ってしまって……。
     男性を避けてお嬢様学校に通う程度には、嫌悪感を抱いている。
     どうして探偵同盟は、居合探偵さんみたいな優秀なヒトだけではなく、見るからに使えないバカ男まで寄越したのかと、責任者を問い詰めたくなる。
    「男性が苦手なのに連れてきてしもうて、かんにんなぁ」
     私が不機嫌なのを察したようで、居合探偵が困ったように苦笑した。
    「探偵同盟のリーダーはんからの強い推薦で、武装はんも同行させることになってなぁ。リーダーはんにも、何か狙いがあるんやろうねぇ」
    「狙い、って?」
    「うーん、せやなぁ。例えば、不死サイボーグの『不死』の秘密を暴くのに彼が必要、とかやろうか」
    「不死とはどういうことなのだ、居合どの!?」
     武装探偵が慌てた様子でこっちに歩いてきた。
    「あら、武装はんは聞いたことありませんのん?」
    「うむ、まったくない! 我は、頭が弱いだけではなく、情報にも疎い男だからな!」
    「自慢にならないでしょ……」
     ああ、もう。
     武装探偵の話を聞いているだけで頭痛がしそうだ。
     居合探偵は慣れているのか、嫌な顔ひとつせず、武装探偵の質問に答えていく。
    「不死サイボーグはな、その呼び名通り、あらゆるボディガードと戦って生き延びてきた過去から『不死』と呼ばれとるそうなんや」
    「確かに……私の記憶では全身鎧姿で、銃弾だって効かなそうでしたね」
     見た限りでは、関節などの必要な箇所を除き、全身を鎧で覆っていた。
     アレでは、どんな攻撃も通じないように思う。
    「全身を鎧でねぇ……なーんか、おかしいと思わへん? 鎧くらいで『不死』を名乗れるなら苦労しまへんわ」
    「それは、そうですね」
     確かに、違和感はある。
     単に鎧がスゴいだけなら、武装探偵のような方向性の呼び名の方がしっくりきそうなもの。
     あの鎧をまとった殺人鬼には、他に秘密でもあるのだろうか。
    「我は、本物のサイボーグ……つまり、肉体の一部を電子からくりに改造した者だと思っているのである!」
    「鎧に見える部分は、肉体を機械に改造した箇所ってことやね。まぁその割には、ゴツ過ぎる気もしますけどなぁ」
    「ゴツ過ぎる、ですか?」
    「どんな見た目にも、意義があるもんなんよ。例えば、武道で袴を着るんは足の動きが読まれんためやし、ウチがスーツなんは身体にフィットした服で斬撃を早うするためや」
    「我の鎧が西洋甲冑なのは、デザインがカッコいいからだと聞いたな!」
    「ちょっと静かにしててください」
    「うむ」
    「もし『不死サイボーグ』が名前通り肉体を機械化しとんのなら、ゴツいだけの鎧なんて着けたりせんと思うんよ。どうせ身体が機械なら並の攻撃は通じへんし、体積が増えると、見つかるリスクも高まりますからなぁ」
    「確かにあの見た目は、ゲームで言えば味方を守るタンク……サイボーグならもっとスマートな、メタロギアの忍者サイボーグのような見た目になりそうです」
    「忍者、細胞? よく分からんけど、まぁ大体そんな感じやね」
     第一いくら裏社会でも、あんな巨大な見た目のサイボーグを作れるなんて、流石に非現実的だ。
     名前でカモフラージュしているだけで、案外中身は普通の人間なのかもしれない。いや、きっとそうだ。ただの人間が、奇妙な鎧を着ただけに、違いないんだ。
     だから、絶対に平気。
     大丈夫。大丈夫、大丈夫――。
     私は、まるで自分に言い聞かせるみたいに、頭の中で何度も同じ言葉を繰り返した。
    「まぁ考えても埒が明きまへんし、あとは本人に聞いたりましょ」
    「や、やっぱり、不死サイボーグは私を襲いに来るんでしょうか……」
    「ああ、間違いあらへん。同盟がその筋から情報を得ましてな、奴が今夜この屋敷を襲撃することはほぼ確定らしいわ」
    「アイツが今夜、ここに……!?」
     思わず声を裏返りかけた。
     背中に悪寒が走って、泣きそうになってしまう。
    「驚かせてかんにんな、七条はん。何でも、不死サイボーグの所属している組織の鉄の掟だとかで、目撃者を一定期間内に殺す必要があるそうなんよ」
    「だから、急きょ我らが派遣されてきたというワケである!」
     二人の探偵が気を遣って声をかけてくれたものの、全然頭に入らない。
     路地裏で不死サイボーグと遭遇した時のことを思い出し、身体が震える。
     奴は手で人間の首の骨をへし折っていた。
     もし、あの腕力が自分に向けられたらと思うと、恐怖を抑えきれない。
    「大丈夫だぞ、七条どの」
     私の震える肩に武装探偵が手を乗せた。
    「我らは何があっても、七条どのから離れたりはしない。必ず守り抜いてみせるのだ!」
     武骨な形の手の感触が肩に伝わる。
     パパの友人たちのやらしい手付きとは違って、その手には優しさが感じられた。
     でも――
    「口だけなら……どうとでも言えますよ」
    「えっ?」
    「何でもありません、独り言です」
     ――どうせお金で雇われただけのくせに。
     そんな不満が口から出そうになるのを、何とかこらえた。
     いくら探偵同盟がスゴい組織だからって、結局は報酬があるワケで。
     その金額に見合った活躍しか期待できない点では、普通の会社と変わらないじゃないか。
     現実にヒーローなんていない。
     最後に頼れるのは、自分だけ。
     あまり信用しすぎないようにしないと。
    「私は、死なない……死んでたまるか」
     私が命を狙われる理由は、不運にも殺害現場に遭遇したこと。
     死因が『不運』だなんて、あまりにもおマヌケすぎる。
     たとえ不幸な境遇だとしても、私は負けない。
     絶対に、負けないんだ。


    IP属地:浙江2楼2021-05-31 22:50
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       その時――パァンと乾いた破裂音が下から響いた。
      「銃声!?」
      「下の階の警備の連中やね……ウチら、ギリギリセーフやったみたいやな」
       居合探偵が私の手を引いて、ベッドから離れるよう促した。
      「どこから来ても対処できるよう、部屋の角に行くで。武装はんは入り口近くで、正面からの襲撃に備えてもろてええやろか」
      「合点承知である!」
       武装探偵が入り口の近くで身構え、私と居合探偵は部屋の角へと移動。
       下の階からは、銃声が止めどなく鳴り続いている。
      「正面突破する気やろうか? 何や、スマートやあらへんねぇ」
       そう、居合探偵がつぶやいた刹那――部屋の明かりが消えた。
       外から見られないよう遮光カーテンを閉めていたせいで、部屋が完全な暗がりに包まれる。
       思わず悲鳴をあげそうになったものの、すぐ隣の居合探偵が口をそっと押さえてくれたおかげで、何とかパニックにならずに済んだ。
      「停電したぞ!? まさか、敵の策略か!?」
      「せやろな。敵さんが銃弾を浴びながらも強行突破したんは、電気系統の破壊を狙っていたワケやね」
       困惑した様子の武装探偵と違って、居合探偵は冷静沈着。
      流石は、序列10位の探偵。
       こんな不測の事態にも慣れているのかも。
      「おもろいもん見せたるわ」
       居合探偵がそう言うと、その手の和傘の先端が、ランタンのように発光した。
       室内がほのかに明るくなり、遠くの武装探偵の姿まで視認できるようになる。
       これなら、不意打ちを喰らうこともなさそうだ。
      「この傘はウチの科学班が作ってくれた特別製でなぁ、懐中電灯から目潰し用まで、色んな光を出せるんよ」
      「面白い傘ですね……」
      「もちろん、光るだけやないけどなぁ? もっとおもろい機能もあるから、七条はんは安心して、戦いを見守っとき」
       こんな危険な状況にも関わらず、微笑みかけてくれる居合探偵。
       その余裕のある佇まいに、乱れていた心臓の鼓動も、自然と落ち着きを取り戻していく。
      (私を襲うには、扉の入り口で武装探偵と戦う必要があるはず……大丈夫、いくら伝説の殺し屋だからって、こんな強そうな二人が相手なら……)
       ――いくら何でも不意をつけるワケがない。
       そんな私の考えを崩すように、ベキベキと、足元の床が妙な音を発した。
      「……そう来はったか。七条はん、ウチに抱きついとって!」
      「えっ!?」
       言われるがままに居合探偵へ抱きついた瞬間、足元の床が砕け散った。
       浮遊感を覚え、何も見えない闇の底へと落ちていく。
       恐ろしすぎて悲鳴をあげる余裕すらない。
       しかし、私のすぐ隣の居合探偵の双眸は、鋭く研ぎ澄まされていた。
      「上等やないの……!」
       居合探偵にそっと投げ飛ばされ、私の自室の直下――リビングのソファの上へと落下した。
       ようやく暗がりに慣れてきたかと思うと、窓のカーテンから差し込む月光が、黒光りする巨大な影を映し出す。
       ゴリラでも脱走してきたのかと思うほどの巨体。
       カブトムシの頭のような、末広がりの兜。
       こんな怪物、見間違えるワケもない――
      「ふ、不死サイボーグ……!?」
       私の声に気付いたようで、不死サイボーグがこちらを向き直った。
       関節からギィギィと、カブトムシの鳴き声みたいな音を立てながら、こちらへと歩いてくる。
       すぐさま逃げようとしたけど、足が震えて、ソファから立ち上がることすらできない。
      「あ……あ……」
      「目撃者、発見。ただちに処理する」
       機械的な声が響いたかと思うと、手甲に包まれた左腕が、大きく振りかぶられた。
       ところが同時に、その巨大な腕の肘から先が――床へと落下する。
      「不死サイボーグはん、油断しすぎとちゃいます? 関節がガラ空きで、思わず斬ってまいましたわ」
       暗闇の奥から居合探偵が飛び出してきて、私と不死サイボーグの間に立ち塞がった。
       その手に持った和傘の持ち手が消え、代わりに鋭利な日本刀が握られている。
       その刀の柄の形は、まるで傘の持ち手。
       まさか、あの傘には、刀が仕込まれていたの!?
      「『お縄につきなはれ』って言いたいところやけど、片手じゃ難しそうやねぇ……かわいそうになぁ」
       心底憐れむような声で語る居合探偵。
       しかし、表情は冷たく、敵意が剥き出しだ。
       視線を向けられなくても、胸がキュッと締めつけられた心地になる。
      「……『探偵同盟』序列10位、居合探偵。妨害するなら、貴様も処理する」
      「出鼻で片腕を失ったのに、大層な自信やないの。はよぅ止血せな、アンタ死ぬで?」
      「私は、不死サイボーグ……絶対に、死なない」
       片腕を失ったにも関わらず、不死サイボーグは怯まずに間合いを詰めてくる。
       よく見れば、腕の断面から出血もしていない。
       不死身どころか出血すらしないなんて……。
      「ホンマにサイボーグってオチですのん? 笑えまへんわ」
       残った腕で居合探偵を掴もうとする不死サイボーグ。
       しかし居合探偵は、ゆらりゆらりと陽炎のように揺らめいて、紙一重で回避し続ける。
       掴まれたら一巻の終わり。
       見ているだけで、心臓がヒリついてしまう。
       月明かりが差し込む中で、巨大な鎧とスーツ姿の女性の間合いが、少しずつ、少しずつ縮まっていく。
       しかし次の刹那――
      「フルメタル・キック!!」
       頭上から武装探偵が飛来した。
       無防備な不死サイボーグの頭に勢いよく蹴りが命中し、寺の鐘のごとく大きく震える。
       当然、居合探偵はその隙を見逃さない。
      「最高のタイミングや、武装はん!」
       居合探偵が一気に間合いを詰め、不死サイボーグの喉元に向かって刀を振るった。
       更に、振り抜いた刀の切っ先を正面に向け、喉に向かって一直線――
       鉄の砕ける音がして、不死サイボーグの喉へと突き刺さる刀。
       そして、その巨体が大きく揺らぎ、背中から床へと倒れていく。
       倒れた瞬間、衝撃で部屋が少し揺れた。
      「た、倒せたの……?」
       私の元へと歩いてくる、武装探偵と居合探偵。
      「駆けつけるのが遅くなってすまなかったな、居合どの」
      「ええって。むしろ、隙を生んでくれて助かったわ。ウチの無外流剣術は、ああいう力押しの奴とは相性がイマイチやからな」
       よかった。
       見た限り、二人とも大きな怪我はないようだ。
       暗闇の中で不意打ちを喰らったにも関わらず、流石だ。
      「あ、ありがとうございます! 二人がいなかったら、私……」
      「間一髪ウチらが間に合おうてよかったなぁ。探偵同盟に依頼したお父はんに、お礼を言うとき」
      「ああ。仕事で屋敷を空ける自分たちの代わりに娘を守って欲しいと、同盟に依頼する方法を必死に探し当てたそうだからな。そのおかげで、我らは七条どのを守れたのである」
      「パ、パパが……?」
       私の話を聞いて、またすぐに仕事へと出ていったから、心配なんてされていないと思ってた。
       でもちゃんと、パパは私を心配してくれていたんだ。
       私は隙を見て街へ遊びに出かけたりするような悪い娘で、今回不死サイボーグに狙われているのだって、自業自得だというのに。
      「パパに、謝らなきゃ」
       ちゃんと面と向かって謝ろう。
       これからは、もっと素直な娘になるために、今日から――
      「全員、処理する」
       居合探偵が素早く振り返った。
       倒れていた不死サイボーグが、ゆっくりと立ち上がる。
       それから、自らの喉に突き刺さっていた刀を、えびせんみたいに軽く握り砕いた。
      「その仕込み刀、えらい高い特注品なんですけど……? 弁償してくだはるんやろな?」
      「金など不要。間もなく、貴様は死ぬ」
       砕けた刀の切っ先を喉に刺したまま、淀みなく言葉を発する不死サイボーグ。
       『不死』という言葉が頭の中で反芻される。
       本当に、目の前の殺し屋は、死なないとでもいうの?
      「どう、して……」
       どうして私が死ななきゃいけないの?
       やっぱり、私はどんなに足掻いたって、不幸な身の上なの?
       まだまだやりたいことがある。
       パパに謝りたいし、学園にだって通いたい。
       頭の中で、不平不満、疑問がどんどん湧き続けていく。
      「武装はん、七条はんを連れて走りぃ! ウチが時間を稼いだる!!」
       居合探偵の声でハッと我に返った。
       武装探偵が私の身体を抱えつつも、逡巡した様子で居合探偵に視線を送る。
      「居合どのはどうするのだ!? 刀も折られたというのに!」
      「まだ小太刀がありますわ! 適当に時間を稼いでお暇《いとま》しますから、気にせんといて!」
       ――ウソだ。
       あの巨体を相手に、小太刀で戦うなんて自殺行為。
       ここで私たちが先に行けば、絶対に殺されてしまう。
       まだ彼女と出会ってまだ一時間も経っていないのに、どうしてこんなことに。
      「……ぐぅ! すまん、居合どの!」
      「あ――」
       武装探偵が部屋の出口へと向かって走り出した。
       ダメ、止まって――と心の中では言おうとするものの、言葉にはならない。
       自分を犠牲にしてでも誰かを救うだなんて、私には無理だ。
      「居合探偵さん、どうして!」
       やっと口から出た言葉は問いかけだった。
       私を抱えた武装探偵が部屋を飛び出す間際、居合探偵は私を振り返り、満足げな笑顔を浮かべた。
      「リーダーはんからの受け売りやけど――悲劇に立ち向かってこそ探偵やからね。
       七条はんも、あんじょう、おきばりやす」
       武装探偵が部屋を飛び出し、居合探偵の姿が見えなくなる。
       そのまま武装探偵は、意識のない警備員たちの倒れている廊下を駆け抜け、屋敷の外へと飛び出した。
       視界に広がる、七条家自慢の広大な和風庭園。
       出入り口までは一直線に走っても10分はかかるし、普通に走っても追いつかれるかもしれない。
       更に、判断を急かすように、すぐ近くでコンクリートの砕ける音がした。
      「今の音は恐らく、敵が壁を壊した音だな……! このまま逃げたところで、すぐに追いつかれる! 我は一体、どうすれば……」
       どこへ向かうべきか判断がつかないようで、武装探偵が動き出せずに呻く。
       敵は素手で家を破壊し、銃弾すら効かず、首に刀が突き刺さっても死なない化け物。
       迷うのも当然だ。
       正面から挑んでも太刀打ちできない。
       かと言って、逃げたところで追いつかれる。
       あんなに頼もしかった居合探偵だって、やられてしまった。
       こんな状況で、ただの女子高生の私に、何ができるって言うの?
      「……七条どのは逃げてくれ。
       この武装探偵が、不死サイボーグを打ち倒す」
       武装探偵が私を地面へと下ろし、先ほど音の聞こえた方へと歩み出す。
       予想外すぎて頭が真っ白になった。
       しかし、すぐさま冷静になって呼び止める。
      「待ってください! 勝算はあるんですか!? あなたよりずっと強い、居合探偵だって勝てなかったんですよ!?」
      「……勝算ならある。
       我にはまだ、秘密兵器があるのだ!」
       武装探偵の右腕の手甲から、何やらバチバチと光が弾け始めた。
       これは、一体……?
      「今こそ、見せる時が来た……!
       我が鎧に秘められた、究極の必殺技『獄電拳《プラズマ・ナックル》』をな!」
      ――後編に続く


      IP属地:浙江3楼2021-05-31 22:57
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        ●後編『武装探偵vs不死サイボーグ』
         月明かりの照らす和風庭園。
         丸石の敷き詰められた庭を、私は鎧姿の男に肩を貸しながら、息を切らしながら走っていた。
         靴下のまま外に出たせいで、足を着くたびに痛む。
         でも今は、そんな痛み、気にしてられない。
        「す、すまない、七条どの……まさか、『獄電拳《プラズマ・ナックル》』に使う電流で、感電してしまうとは……」
        「ホンッット嫌い……! あなたのこと、少しでも信じた私がバカでしたよ!!」
         必殺技を見せると息巻いた次の瞬間、武装探偵は情けない悲鳴をあげ、その場に崩れ落ちた。
         どうやら、腕に仕込まれた電流を流す装置の使用方法を誤って、感電してしまったらしい。
         こうなると、しばらく身動きがとれないようなので、私は大嫌いな男性の身体に触れるどころか、肩を貸して走る羽目となっている。
         何から何まで災難だ。
        「さっき言ってたプラズマなんちゃらなら、本当にあの化け物を倒せるんでしょうね!?」
        「う、うむ……『獄電拳《プラズマ・ナックル》』の威力ならば、さしもの不死サイボーグも耐えられまい。確実に倒せる、はず……」
        「何で最後の方をちょっと言葉濁すんですか!? 急に自信をなくさないでくださいよ!?」
         ああ、もう会話するのもキツい。
         どちらにせよ、私に残された望みはもうこの鎧男だけなんだ。
         鎧男が回復するまで何とか逃げ切って、あの不死サイボーグを必殺技で倒してもらう。
         この道以外に、生き延びる術はない。
        「この庭は広いし、そう簡単には追いつけないはず。今のうちに、時間を稼がないと……づぁッ!?」
         足に鋭い痛みが走った。
         どうやら、丸石で爪が割れてしまったらしい。
         お気に入りのウサギ柄の靴下に、真っ赤な血のシミが広がってしまう。
        「ぐ、くぅぅぅ……!」
        「七条どの……何故、我を見捨ててくれないのだ……?」
        「ハァ……!? 見捨てて欲しいんですか!?」
        「そ、そういうワケではないが……我はおぬしにとって他人なはず。第一印象だって悪かったはずなのに、どうして……」
        「……ただの気まぐれですよ。いざとなったら見捨てるんで、黙っててください」
         ――あんじょう、おきばりやす。
         分かれる間際の居合探偵の言葉と、穏やかな笑顔が、頭から離れない。
         他人なのは居合探偵も、この武装探偵も同じ。
         そもそも彼らに、私を守る義務なんてないはずだ。
         にも関わらず、居合探偵は死を覚悟して、私の逃げる時間を稼いでくれた。
         平凡な私には理解できない行動。
         ただその姿は、とても美しくて、カッコよく見えた。
         『不幸』が理由で死ぬくらいなら。
         泣き喚きながら、無様に死ぬくらいなら。
         私だって、この探偵たちみたいに、最期まで戦い抜いてやる――
        「――七条はん」
        「え?」
         聞き覚えのある声が聞こえて、ハッとした。
         声の発信元を探していると、もう一度、今度はハッキリと耳にする。
        「七条はん!」
        「居合、探偵?」
        「今の声は、居合どのか!? よかった、生きていたのだな!」
         間違いなく居合探偵の声だ。
         声がした方を見ると、池くらいしかなくて、人影は一切見えない。
        「七条はん!」
         声のした方角に間違いはない。
         ――遠くだから見えないだけで、池の近くにいるのか?
         不信感は拭えないものの、ついつい池の方へと近づいていってしまう。
        (居合探偵なら逃げ延びていても不自然じゃないし……彼女がいてくれたら、一気に状況が好転する)
         そんなことを考えながら、私たちは更に近づいていく。
         遠くに見えていた池がもう目の前。
         居合探偵のトレードマークとも言うべき和傘が、閉じた状態で池の脇に突き刺さっているのが見えた。
        「七条どの、居合どのの傘だぞ! やはり、彼女は生きていたらしいな!」
        「……そう、ですかね」
         そこで不意に嫌な想像が働き、足を止める。
         それから、暗がりを映し続ける池の水面に、じっと目を凝らしてみた。
        「七条どの? どうしたのだ? 居合どのが呼んでいるのだぞ?」
        「私は、とびっきり不幸なのに……こんなの都合がよすぎます」
         ――居合探偵が生きていた?
         ――私たちに気付いて、呼びかけてくれた?
         ――不死サイボーグに見つからずに、合流できた?
         この事件を通して、今までの人生を振り返っていたからこそ、分かる。
         こんなにも都合のいい展開なんて、ありえない。
         あるとしたら――
        「敵の罠に決まってる」
        「七条はん!」
         また名前を呼ばれたけど、無視して踵を返そうとした。
         すると――
        「七条はん!」「七条はん!」「七条はん!」「七条はん!」「七条はん!」「七条はん!」「七条はん!」「七条はん!」「七条はん!」「七条はん!」「七条はん!」
         壊れた機械みたいに同じ声が何度も響き渡った。
         そして、私の睨んでいた水面に波紋が広がり、中から黒光りする巨大な鎧が這い上がってきた。
        「何だと……!? い、今までの居合どのの声は、一体……!」
        「録音した声を再生していたんでしょうね。あなたの鎧と同じで、アイツの鎧にもおかしな機能でもあるんじゃないですか?」
         水をしたたらせながら、不死サイボーグがこちらへと迫ってきた。
         追いつかれないよう、武装探偵と一緒に走り出す。
         足自体は早くないものの、歩幅の違いのせいでどんどん距離が縮んでいく。
         何で、あんな巨体で俊敏な動きができるんだろう。
         本当に同じ人間なのか?
         ちらりと背後を振り返ると、首にはまだ、居合探偵の刺した刀の切っ先が刺さったままとなっている。
         外見だけを見れば、もはや人間ではなく、巨大な鎧の化け物だ。
        「外見、だけを見れば……?」
         ふと考えがよぎった。
         ずっと、不死サイボーグの外見を怖がってばかりいたけど、奴の中身はどうなっているんだろう。
        「ねぇ、武装探偵。あなた、もし鎧にゴキブリがついたらどうします?」
        「い、いきなり何を言うのだ、七条どの! 取っ払うに決まっているのである!」
        「鎧の上なら何ともないのに?」
        「そういう問題ではないであろう!? 何ともなくても、怖いものは怖いのである!」
        「ですよね」
         もし仮に、自分が不死身で、刃物が効かないとしよう。
         だからって、喉に刺さった刃物を、そのままにしておくだろうか。
         ゲームでも、不死身のように感じた敵が、実は弱点を隠していたという展開は珍しくない。
         不死サイボーグも同じだとすれば、答えは自ずと絞られる。
        「私、分かったかもしれません……不死サイボーグの『不死』の秘密」
        「なぬぅ!? 一体どういうことなのだ!? 教えてくれ、七条どの!」
        「時間がないので、よく聞いてくださいね……」
         不死サイボーグの『不死』の仮説について、武装探偵にすべてを伝えた。
         素人の意見だし、信じてくれないかと思ったけど、武装探偵は意外にもすんなりと受け入れてくれた。
        「……なるほど。我の知る特殊な鎧の中に、親しい性質のものがある。恐らく、七条どのの推理は当たっているな」
         そして私が頼みたかったことを自ら口にする。
        「ならば……我が命をかければ、不死サイボーグを倒せるかもしれんな」
         不死サイボーグの足音がすぐ後ろまで迫ってきている。
         1分もしないうちに追いつかれるだろう。
         もう迷っている暇はない。
        「武装探偵……私のために、命をかけてくれますか?」
        「無論だ! そのために、我はここへ来たのだからな!」
         迷わず答えた武装探偵は、私の肩から腕を離し、その場で向き直った。
         まだ感電によるシビレは残っているようで、やや足がフラつき気味。
         しかし不死サイボーグと真っ直ぐに向き合って、高らかに叫ぶ。
        「我こそは探偵序列90位――武装探偵!
         不死サイボーグどの、いざ尋常に、勝負されたし!!」


        IP属地:浙江4楼2021-05-31 22:59
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           それまで周囲を照らしていた三日月が、雲で覆われた。
           夜闇を一層濃くした和風庭園で睨み合う、漆黒の鎧と鈍色の鎧。
           この光景だけ切り取ると、まるで別世界の出来事みたいだ。
           でも、これは確かに現実で。
           もし鈍色の鎧の男――武装探偵が殺されれば、私も死ぬことになる。
           今の私にできることは、信じることだけだった。
          「武装探偵。登録データなし……脅威度をDに設定」
           先に動いたのは不死サイボーグだった。
           足元の丸石を蹴飛ばし、武装探偵への目潰しとする。
           対して武装探偵は、丸石などまったく気にも留めず、力いっぱい前へと突っ込んでいった。
          「もらったァァァァァ!!!」
          「小癪――」
           不死サイボーグが左拳を横薙ぎに払った。
           武装探偵は避けきれず、拳をまともに受けてしまい、思い切り吹き飛ばされてしまった。
           感電の影響か、動きにキレがない。
           やっぱり、まともに戦っていたら、勝ち目はなさそうだ。
          「いい拳をしているな、不死サイボーグどの! だが、我が一族に伝わるこの鎧に傷をつけるには、まだ威力が足りないぞ!」
           それでも武装探偵は立ち上がる。
           見ず知らずの私の命を守ろうと、戦い続けてくれる。
          「待ってて、武装探偵」
           私は注意がそれた隙に池へと向かって、丸石の中に突き立てられていた居合探偵の和傘を回収した。
          「えっ……」
           遠くからはよく見えなかったけれど、傘の表面は血まみれだ。
           否が応でも、持ち主の末路が頭によぎる。
           軽いはずの傘が、石みたいに重たく感じられた。
          「居合探偵……力を貸してください」
           傘を抱えて元の場所へ戻ってくると、地面に膝を着く武装探偵に、不死サイボーグが拳を振り下ろそうとしている場面であった。
           いくら武装探偵でも、あんな力まかせの攻撃を受けたら助からない。
           何とかしなきゃ――
          「武装探偵!!」
           真っ白な頭のまま、傘の先端を不死サイボーグに向け、ここまで来る途中に見つけたスイッチらしきものをイジった。
           すると――先ほど停電した時のように傘の先端が発光。
           強烈な光がピンポイントで不死サイボーグの胸へと当たる。
           さっき居合探偵が言っていた目潰し用の光だ。
           私の推理通りなら、これで――
          「ギィ……っ!?」
           不死サイボーグの振り下ろした拳の軌道がそれ、誰もいない丸石の上へと叩きつけられた。
          「ビンゴです! やっぱり不死サイボーグの本体は、腹部にいます!」
          「相分かった!!」
           私が呼びかけると同時に、武装探偵の右拳がバチバチと発光を開始。
           動けば動くほど蓄電するエネルギーを拳から全て放出するという必殺技――『獄電拳《プラズマ・ナックル》』の構えだ。
           拳に溜まっていくエネルギーの潮流が、距離の離れた私にまで伝わってくる。
           そこでようやく、不死サイボーグも自身の窮地に気付いたのか、悲鳴のような声を発し始めた。
          「――脅威の反応を感知。脅威度をCに更新、Bに更新、Aに更新」
           片腕は居合探偵が斬り落としてくれた。
           残った片腕も、今は反動で動かせない。
           今なら確実に、攻撃が決まる――
          「必殺――獄電拳《プラズマ・ナックル》!!!」
           武装探偵の右拳が不死サイボーグの胸を打ち抜いた。
           鋼鉄同士がぶつかり合い、響き渡る轟音。
           足元の丸石が飛び散って、砂煙が舞ったものの、徐々に視界が晴れていく。
          「居合どの……仇は、討ったぞ」
           武装探偵の拳は、不死サイボーグの胸部の装甲を貫き、内部にまで到達していた。
           感電が起きたのか、重なり合っていた二人分の鎧が、同時にその場へ崩れ落ちる。
          「武装探偵!?」
           慌てて武装探偵の元へと駆け寄って、助け起こした。
           気絶しているようだけど、呼吸はしているようだ。
           この方法しかなかったとは言え、感電するのを承知で殴らせるなんて心苦しい。
           心の底から、生きて欲しいと思う。
          「だい、ぢょ、を、じょり、す――」
           とぎれとぎれの声が聞こえた。
           黒光りする鎧がフラフラと立ち上がり、残った右腕を振り上げる。
           穴の空いた胸部の装甲から見える、へしゃげて血まみれの顔。
           ハッキリとは見えないものの、明らかに顔の骨が砕けていて、目の焦点も合っていない。
          「まだ、やるの……? 不死の秘密を見抜かれたアンタに、もう勝ち目はないわ」
          「わ、だす、は、ぅじ、ジャ、ボ、グ……ぢ、なない……」
           不死サイボーグに攻撃が通じなかったのは、急所と思われた場所が空洞だったため。
           恐らく首はダミーで、四肢は義手・義足のような構造なのだろう。

           これだけの装甲を前にすれば、関節の隙間や装甲の薄い首などを狙って当然。
           しかし実は、不死サイボーグの本体は鎧よりもずっと小さくて、弱点のように見えた場所には肉体が存在していなかったんだ。
          「居合探偵が刺した刃を首から抜かなかったのが敗因よ。いくら不死だからって、痛みを感じないからって、急所に刃物が刺さってたら抜くはず……抜かないのは、そこに肉体がないからだと思ったの」
          「わだ、ぢぁ……!! ぢ、なない!!!」
           呂律の回っていない雄叫びをあげながら、全力で拳を振り下ろしてきた。
           避けられないと死ぬ。
           でも不安はない。
          「七条どのは死なせん……!」
           だって私のそばには、探偵がいるから。
           案の定、私の胸の中にいた武装探偵が腕を振り上げ、拳を防いでくれた。
           先ほどまで意識がなかったというのに。
           感電の影響で、まともに身体を動かせないはずなのに。
           この探偵は、どこまでも誰かを守ることに必死なんだと、呆れてしまった。
          「これで終わりだ、不死サイボーグどの!!」
           そして武装探偵が不死サイボーグを殴り倒し、今度こそ決着するのだった。


          IP属地:浙江5楼2021-05-31 23:05
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             私はその后、身体がシビレて动けない武装探侦の代わりに、警察や救急车を呼んだり、负伤したヒトたちの応急処置をしたり、不死サイボーグを缚る縄を屋敷から持ってきたりと、后処理に追われることになった。
             何もかもが初めてで、自分が何も知らない、何もできないお嬢様であることを痛感させられる。
             でも、悪い気分じゃない。
            「リビングで……居合探侦の遗体を见つけました」
             庭で倒れたまま动けない武装探侦の隣へと座り、报告をした。
             スカート越しに*へ丸石の感触が伝わって痛む。
             でも今は、痛いくらいがちょうどいい。
            「居合探侦は、私なんかのために死んで、后悔していないんでしょうか……」
             今更になって、自分のためにヒトが死んだという実感が、ふつふつと胸に涌き上がってきた。
             私がO须商店街のゲームセンターに游びに出かけたりしなければ、こんなことにはならなかったのに。
             自分の軽率な行动のせいで多くのヒトが伤ついて、死人まで出てしまったなんて。
             悔やんでも、悔やみきれない。
            「勘违いしてはいけないぞ、七条どの。我らは别に、他者のためにこの生命をかけているワケではないのだ」
             头だけをこちらに向かって上げて、武装探侦が言叶を続ける。
            「我ら探侦は、それぞれの信念に従って探侦を志した者ばかりだ。他者のために命をかけるのではなく、自分の信念を贯くために、命をかけているのである」
            「自分の信念の、ために……?」
             そう言えば、最期に见た居合探侦の横颜は、とても満足げだった。
             アレは、强がりじゃなかったんだろうか。
            「居合探侦も、后悔してないんでしょうか……何もできない私のためなんかに杀されて、悔しく、ないんでしょうか」
            「ああ、间违いない。居合どのは最期まで、自らの信念に殉じ続けたのだからな」
            「でも、それでも……」
            「それに七条どのは、不死サイボーグの秘密を読み解いてくれたではないか。七条どのの助言がなければ、我は确実に死んでいたぞ?」
            「あ、あの时は、とにかく必死で……それに、ゲームでも似たようなボスがいたような気がしたから」
            「七条どのだから解けた秘密であることは、间违いない。だからこれからは、『私なんか』などと、自分を卑下してはいけないぞ?」
             そう言って、武装探侦がフラフラと立ち上がり、私にそっと手を差し出した。
            「この世に死んでいい命などいない。だからこそ、我ら探侦は命をかけ、人々を守り続けるのだ!」
             私は笑い返して、武装探侦の手を取って、立ち上がる。
             男性に触れられた时の嫌な気持ちは、もうない。
             これからは、もっと前向きに、人生を生きられる。
             そんな気がした。
            ――END


            IP属地:浙江6楼2021-05-31 23:06
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              【『探偵同盟』科学班のレポート】
               不死サイボーグ事件に関して、現状判明している以下の情報、4点を共有する。
              ①装着していた特殊装甲は、過去に盗難の届け出が出ていた妖甲の一種『鬼灯《ほおずき》』を改造したものであった。
              ②不死サイボーグの“本体”は、四肢が異様に短く、骨格の構造が明らかに常人と異なっているなど、筆舌に尽くしがたい容姿であった。
               素性の特定を進めているが、芳しくない。
               無戸籍の可能性が高いと見ている。
              ③“本体”は、頭蓋骨に埋め込まれていた通信装置の熱暴走により、脳が損傷。
               著しい思考力の低下が見られる。
               所属していた組織について、情報を引き出すことは難しい見込み。
              ④“本体”から聞き出せた言葉の中には『明けぬ夜』がある。
               『明けぬ夜事件』との関連性は現状不明。
               ――以上。


              IP属地:浙江7楼2021-05-31 23:06
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                本篇小说主要介绍了武装侦探、居合侦探和委托人的女儿七条奈奈菜一起打倒不死改造人的故事


                IP属地:浙江8楼2021-05-31 23:11
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