何とはなし路地裏へ視線を向けると――非日常が広がっていた。
奇妙な鎧をまとった何者かが、手甲に包まれた大きな腕で、スーツの男性の首を掴み上げている。
鎧は2mにも届きそうなほど背が高く、隙間から差し込む月明かりで黒光りし、フォルムが丸みを帯びている。
肩口まで広がり、顔をすべて覆い隠した兜は、パパが大切に飼っているカブトムシのメスみたいだなぁと、あまりにもノン気な考えが頭に浮かんだ。
この私、七条奈々菜は親が金持ちなだけの、平凡な女子高生。
きっとステータスを『お金持ちの家の生まれ』という境遇に、全振りしてしまったんじゃないかと思う。
目立った特技も趣味もない。好きなものはゲームくらいなもの。これまでの人生で面白いことなんてなかったし、これからもないものだと思ってた。
だから、目の前のあまりに異常な光景に、頭の処理が追いつかず、呆けることしかできない。
――ゴキッ。
生々しい骨の破砕音が、私を現実に引き戻した。
ありえない方向に首の曲がった男性と、目が合ってしまう。
生気を失ったその目は、まるで冷蔵庫によく入っているお魚のようで、恐怖よりも気色悪さが上回った。
「……目撃者と遭遇。処理を開始する」
鎧が男性とも女性ともとれない無機質な声を発した。
無知でノン気な私も、ようやく自分が命の危機に瀕していることを自覚する――
「い、いやぁぁぁぁぁぁぁぁあああああッ!?」
どうすればいいのか分からないので、とにかく大声を出しながら人通りの多い通りに向かって走った。
ここは、東海地方有数の繁華街、O須商店街のすぐ近く。
人通りの多い場所なら、あの化け物だって流石に何もできない。できないはず。できないよね?
何も考えれられないくらい、必死に走って、走って、走り続けて。
私は気付けば、交番で警官に保護されていた。
警官たちは、私の話を話半分に聞いていたものの、私が記憶を頼りに似顔絵を描いてみると、空気が一変。
すぐさま自宅へとパトカーで送迎され、パパからウソみたいな話を聞かされることとなった。
どうやら私は、『不死サイボーグ』と呼ばれる殺し屋の犯行現場を、目撃してしまったらしい。
しばらくは学園も休んで、自宅の屋敷でボディガードたちと共に不死サイボーグの襲撃に備えるよう、パパから命じられた。
それから早二日――
「不死サイボーグって何なのよ……意味分かんない」
自分の部屋の天蓋付きベッドに寝転がりながら、私はもう何度目になるか分からない愚痴を口にする。
殺害現場を目撃したあの日、O須商店街を訪れたのはほんの出来心からだ。
パパもママもいつも仕事で屋敷を空けていて、学園のない休日は暇で仕方がない。
大好きなゲームセンター目当てに、こっそり街へ遊びに出かけるくらい、普通のことだと思う。
少なくとも、罰当たりなことではないだろう。
それなのに、命を狙われる羽目になるなんて、あまりにも理不尽じゃないか。
「早く学園に行きたいよぉ……」
枕に顔を突っ込んで、私は誰にも聞こえないようつぶやいた。
私の通う学園――私立百合愛学園は平凡な私にとって、何よりの憩いの場。
悪いことなんて何ひとつしていないのに、どうして私が、唯一の楽しみを奪われないといけないんだろう。
「いつになったら、私は自由になれるの? 学園に通えるようになるの? 誰か、教えてよ」
「大丈夫。すぐに通えるようになるのである」
思いがけず返事があった。
驚き、枕から顔をあげ、声のした方に視線を向けた。
何とベッドのすぐそばに――鈍色《にびいろ》の甲冑の男が立っていた!
「七条どの! おぬしのことは、この武装探偵《ぶそうたんてい》が命をかけて守ろう」
「ギャアアアアアアアアアアア!?」
そして屋敷中に響くくらい盛大な悲鳴をあげてしまうのだった。
奇妙な鎧をまとった何者かが、手甲に包まれた大きな腕で、スーツの男性の首を掴み上げている。
鎧は2mにも届きそうなほど背が高く、隙間から差し込む月明かりで黒光りし、フォルムが丸みを帯びている。
肩口まで広がり、顔をすべて覆い隠した兜は、パパが大切に飼っているカブトムシのメスみたいだなぁと、あまりにもノン気な考えが頭に浮かんだ。
この私、七条奈々菜は親が金持ちなだけの、平凡な女子高生。
きっとステータスを『お金持ちの家の生まれ』という境遇に、全振りしてしまったんじゃないかと思う。
目立った特技も趣味もない。好きなものはゲームくらいなもの。これまでの人生で面白いことなんてなかったし、これからもないものだと思ってた。
だから、目の前のあまりに異常な光景に、頭の処理が追いつかず、呆けることしかできない。
――ゴキッ。
生々しい骨の破砕音が、私を現実に引き戻した。
ありえない方向に首の曲がった男性と、目が合ってしまう。
生気を失ったその目は、まるで冷蔵庫によく入っているお魚のようで、恐怖よりも気色悪さが上回った。
「……目撃者と遭遇。処理を開始する」
鎧が男性とも女性ともとれない無機質な声を発した。
無知でノン気な私も、ようやく自分が命の危機に瀕していることを自覚する――
「い、いやぁぁぁぁぁぁぁぁあああああッ!?」
どうすればいいのか分からないので、とにかく大声を出しながら人通りの多い通りに向かって走った。
ここは、東海地方有数の繁華街、O須商店街のすぐ近く。
人通りの多い場所なら、あの化け物だって流石に何もできない。できないはず。できないよね?
何も考えれられないくらい、必死に走って、走って、走り続けて。
私は気付けば、交番で警官に保護されていた。
警官たちは、私の話を話半分に聞いていたものの、私が記憶を頼りに似顔絵を描いてみると、空気が一変。
すぐさま自宅へとパトカーで送迎され、パパからウソみたいな話を聞かされることとなった。
どうやら私は、『不死サイボーグ』と呼ばれる殺し屋の犯行現場を、目撃してしまったらしい。
しばらくは学園も休んで、自宅の屋敷でボディガードたちと共に不死サイボーグの襲撃に備えるよう、パパから命じられた。
それから早二日――
「不死サイボーグって何なのよ……意味分かんない」
自分の部屋の天蓋付きベッドに寝転がりながら、私はもう何度目になるか分からない愚痴を口にする。
殺害現場を目撃したあの日、O須商店街を訪れたのはほんの出来心からだ。
パパもママもいつも仕事で屋敷を空けていて、学園のない休日は暇で仕方がない。
大好きなゲームセンター目当てに、こっそり街へ遊びに出かけるくらい、普通のことだと思う。
少なくとも、罰当たりなことではないだろう。
それなのに、命を狙われる羽目になるなんて、あまりにも理不尽じゃないか。
「早く学園に行きたいよぉ……」
枕に顔を突っ込んで、私は誰にも聞こえないようつぶやいた。
私の通う学園――私立百合愛学園は平凡な私にとって、何よりの憩いの場。
悪いことなんて何ひとつしていないのに、どうして私が、唯一の楽しみを奪われないといけないんだろう。
「いつになったら、私は自由になれるの? 学園に通えるようになるの? 誰か、教えてよ」
「大丈夫。すぐに通えるようになるのである」
思いがけず返事があった。
驚き、枕から顔をあげ、声のした方に視線を向けた。
何とベッドのすぐそばに――鈍色《にびいろ》の甲冑の男が立っていた!
「七条どの! おぬしのことは、この武装探偵《ぶそうたんてい》が命をかけて守ろう」
「ギャアアアアアアアアアアア!?」
そして屋敷中に響くくらい盛大な悲鳴をあげてしまうのだった。